お問い合わせ

INTERVIEWプログラミング教育について、識者と考えます

デジタルは、子どもの創造性を広げるのに最適なツール

文 星政明/写真 布川航太

人の動きにあわせて映像が変化するインタラクティブ広告を、街中のあちらこちらに見かけます。そんなインタラクティブ広告の第一人者が、株式会社しくみデザインの中村俊介さん。デジタルを活用したプロダクトや作品を次々と生み出す中村さんに、子どもの創造性を広げるために必要なことを伺いました。

Profile:中村 俊介

株式会社しくみデザイン代表取締役。名古屋大学工学部建築学科卒業後、九州芸術工科大学大学院(現・九州大学芸術工学研究院)に進学。学業のかたわら、アルバイトとして働いていたソフトウェア開発会社で建築支援のための構造計算ソフト開発に従事。大学で学んだアートとプログラミングを融合させたメディアアートで注目を浴び、エンターテインメント向けのインタラクティブコンテンツを開発する企業、株式会社しくみデザインを2005年に創業した。

しくみデザイン

前例のないインタラクティブコンテンツ分野を開拓

――中村さんが代表をされている「しくみデザイン」という会社について教えてください。

映像や音楽、コンピュータグラフィックスなど、さまざまな要素をプログラミングで制御することで、今までにない体験を生み出すことを目指しています。

東京タワーの『ゾロの一刀両断』(東京ワンピースタワー)、サンリオピューロランドの『ぐでたまらんど』といったデジタルアトラクションの製作や、アーティストのライブ演出も行っています。人の動きに合わせてリアルタイムに映像を加工するインタラクティブ広告も僕たちの得意分野で、これまでに1000件以上手がけています。

――創業は2005年だそうですね。当時はその種のものは少なかったように記憶しています。

僕の知る限り、国内ではほとんど事例がありませんでした。海外ではアメリカのアーティストが、「インスタレーション」や「インタラクティブアート」の名前で作品を発表していましたが、ほとんどは美術館に展示するためのアート。ビジネスとして、商業向けにプロダクトをリリースしたのは僕たちが先駆けだと思っています。

――最初の作品はどんなものだったのでしょうか。

「神楽」という体の動きに反応して音と映像を創り出すメディアアートです。パソコンのカメラの前で体を動かすことで、自分の体を楽器にできるわけです。カメラ搭載パソコンもほとんどない時代で、コンセプトを理解してもらうのがとても大変で(笑)。時代が追いつくのに10年以上かかりました(笑)。それが今展開している「KAGURA」(http://www.kagura.cc/jp/)という楽器演奏プログラムへとつながっています。

――たしかに前例がないと理解しがたいですね。

特に大人はそうですね。理屈で考えてから物事に向き合いますから。でも、子どもは違うんです。何も考えずにとりあえず遊んでくれます。反応もはっきりしていて、おもしろいものならおもしろい、つまらないならつまらないと正直です。子どもが楽しいと思って遊んでくれる作品は、大人にも楽しんでもらえるんですよね。つねに子どもの目線を意識しています。

――その考えはしくみデザイン創業時からのDNAのようなものでしょうか。

そうですね。そう言えると思います。ただ、多少変わってきているかもしれません。会社の創業直後は僕もメンバーも学生だったので、子どもの目線というより、半分子どもとして開発していました(笑)。いまは結婚して子どもがいるメンバーが多いので、大人として(笑)、子どもにも大人にも楽しく遊んでもらえるようなしくみを考えてています。

Springin’でプログラミングを学ぶ環境を提供

――自分たちが子どもだった段階から、親の目線へステージが移行していったのですね(笑)。

そうですね。あと、子どもが「モノづくり」に熱中できる環境を整えてあげたいと考えています。そうして開発したのが、スマートフォンとタブレットでプログラミングが学習できるアプリ「Springin’」(http://www.springin.org/jp/)です。

――Springin’はどのようなアプリなのでしょう。

自分で描いた絵や撮影した写真に動きを設定し、ゲームやパズル、絵本や楽器などを作れるクリエイティブツールです。 絵や写真にどんな動きを持たせるか、その動きによって周りがどんな影響を受けるかを考えながら作るしくみで、プログラミング的な思考や創造力が自然に養えるようになっています。

――子どもたちはどんなふうに遊んでいますか?

定期的にワークショップを開催しているのですが、子どもの発想の柔軟さにいつも驚かされます。ワークショップでは、アプリの簡単な使い方を教え、参考に迷路ゲームの作り方を配ります。でも、迷路ゲームをそのまま作る子どもはいませんね。ほとんどの子どもが、自分で考えたオリジナルアプリを作ってくるんです。

たとえば、エアホッケーのような対戦ゲームを作ったり、音に興味のある子どもは録音した音の高さやピッチを調整したり、遊び方は千差万別です。そこで実感したのは、自由に扱えるツールを提供すれば、子どもは自主性や創造性をいかんなく発揮するということです。

――子どもは自然の中で遊んで創造力を鍛えるべきだ、という考え方がありますがどう思われますか?

デジタルとアナログの区別はまったく必要ないと思います。モノを作り出す道具として、鉛筆もタブレットも同列です。

子どもの創造力をはぐくむのに重要なこと

――子どもの創造力を伸ばすにはどうすればいいと思われますか?

僕たち大人が気をつけるべきなのは、子どもが自発的に持った目的を否定しないことであり、邪魔しないことだと思います。画一的な評価をしないことも重要です。

「邪魔をしない」ということの中には、不要な手助けをしないことも含まれています。たとえば、子どもが「絵を描きたい」と言った場合、大人は絵画教室を探して通わせようとしますよね。音楽でも同じで、ピアノ教室やバイオリン教室に行かせようとします。でも、それはできることを限定して、子どもの視野を狭くすることにつながりかねません。

そうではなく、もっと子どもから目的をはっきりと聞き出すべきです。具体的に何がしたいのか子どもに考えさせて、その答えにあった学習をできるようにするといいと思います。

――おっしゃるとおりですね。

将来の夢を聞くにしても同じです。大人って、職業を答えさせようとするんですよね。でも、それって何も答えていないのと同じですよ。たとえば「公務員」だって、窓口でのサービスから都市計画まで仕事は幅広い。だから職業ではなく、「どんなことができる大人になりたい」か聞いて、それを実現するにはどうすればいいのかをサポートしてあげたらいいんです。

――可能性を狭めないことが大事だということですね。

そうです。だから、ぜひ子どもたちには、何でも学んでほしいなと思っているんです。もちろん、学校の勉強に関してもそうです。

――詳しく教えてください。

算数が理解できないのなら、理科の理解も遅くなるでしょうし、国語が苦手なら、ほかの教科の問題文を読むことができません。本来、すべての教科はどこかで共通点があって、日常の生活ともつながっている。

どうしてこんなことを考えたのかというと、僕たちの作品も同じだからです。映像や音楽と、プログラミングはまったく別のものだと考える人も多いと思います。ですが、音楽や映像を作るのにも理科や算数は役に立ちますし、アルゴリズムを学ぶととても効率がいいんですよね。このことを知れば、音楽家になりたいという子だって理系の科目に興味を持つはずです。

でも、今の学校はそういうことを教えない。僕の子どもは5歳なのですが、入れたい学校がないなって(笑)。だから、いつの日か自分で学校を作りたいと思っています。

――世界のすべてがつながっていることを知れば、興味の幅は大きく広がりますね。

ぜひ子どもに教えてあげてほしいと思います。あとは、恣意的な評価をしないように心がけてほしいです。たとえば、絵を描くことが嫌いな大人は多いと思うんです。でも、小さい子どもってみんな絵を描くのが好きですよね。なぜ途中で嫌いになってしまったのか。その理由はというと、学校の授業の評価にあると思うんです。教師の基準でうまい下手の評価をつけられてしまうんですよね。そういう恣意的な評価が、子どもの可能性を狭めてしまいます。

――プログラミングでもそうなのでしょうか。

同じですね。Springin’のワークショップでは、しばしばプログラミング教室が嫌いという子どもに会うんですよ。なぜなのか聞くと、まわりと違うことをしようとすると怒られるからだそうです。たとえばスクラッチ(アメリカのマサチューセッツ工科大学が開発したプログラミング学習ツール)なら、はじめにネコのキャラクターを動かすレッスンをすることが多いのですが、「違うキャラクターがいい」というと、授業の趣旨に反していると注意されたとか。

――そこから興味を持つかもしれないのに、もったいないですね。

教える側の気持ちもわからなくはないんです。講師は一生懸命に教材を作って、自分なりの答えを設定しているんですよね。その正解に子どもを導こうと一生懸命になっているんです。

うちの子どもが勉強する姿を見て思うのですが、正解があると、子どもごころに「間違えたくない」と思ってしまうんですよ。だから、萎縮してしまう。でも間違えたら、なぜ間違えたか考えればいいんです。僕は、間違いは成功への一歩ということを教えてあげたい。

――もし、中村さんがプログラミングを子どもに教えるとしたらどうしますか。

まずは適当に触らせます。それを見守りながら、質問をされたら答えるようにして、子どもの興味を伸ばしていきます。

――自主性が大事なのですね。

大切なのは、子どもが「楽しい」と思う気持ちですね。また、子どもにプログラミングをするようになってほしいと思っているなら、まずは親がやるようにすべきです。子どもって親のまねをしたがりますから。上手にできなくてもいいんです。大人がプログラミングに熱中する姿を見ることで、子どもも興味を持つようになります。

デジタルネイティブの世代が新たな文化を生み出す

――ITに囲まれた子どもは、どんな大人に成長すると思いますか。

いまの大人の中には「IT嫌い」の人がいますが、今後、そんな考え方はなくなると思います。なぜなら、いまの子どもは生まれたときから、まわりにITがあるからです。いわゆるデジタルネイティブの世代ですね。そんな子どもたちにとっては、アナログとデジタルの区別もなくなるでしょう。

――デジタルへの考え方からして変わってきそうですね。

そんなあたり前のITを使って、小学生・中学生たちは将来、新たな文化を創り上げていくでしょう。僕は1970年代生まれで、ポケベルから携帯電話、パソコン、スマートフォンなど、あらゆるデジタルツールの過渡期にいました。その過程では、上の世代から「訳のわからないことをして」と、とやかく言われたものです。ポケベルの数字で会話をしていたのなんか、その典型ですよね(笑)。でも、今後は、同じように僕たちがわからない文化を、子どもが創造していくことでしょう。

そんなときに僕たちがするのは、子どもに何かを教えることではありません。邪魔をせずに見守ることが大事なんですよ。

Springin’のワークショップに来る保護者の方を見ていてもそう思います。Springin’にはプログラミングの要素をふんだんに盛り込んでいて、それを使って作品をつくっていればオブジェクト指向のプログラミングの基礎が自然と身につきます。ただ楽しさを重視したいので、そういうお勉強要素は表に出していないんですが、保護者の方が見ると遊んでいるようにしか見えない。「プログラミングを学んだ」と実感しにくいんですよね。

でも、繰り返しになりますが、大事なのは子どもが楽しみながら、何かに興味を持って、作りたいという気持ちを自主的に持つこと。大人たちは、子どもの興味を潰さないように、見守ってあげてほしいなと思います。

――「作りたい」という気持ちは、どんな子どもにも大事なのでしょうか。

そう思います。もちろん、全員が僕たちのようなデジタルクリエイターを目指す必要はありません。ただ、デジタルは用途が無限大というのがよいところ。絵も描けるし、音楽も楽しめる。創造性を高めるためにもデジタルを活用してほしいですね。

PAGE
TOP