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INTERVIEWプログラミング教育について、識者と考えます

著書累計はなんと100万部!
外資系IT企業のスーパービジネスマンが実践する
子育てとプログラミング教育

取材・文 中川明紀/撮影 大野真人

今回取材した河野英太郎さんは、外資系IT企業に勤務し、いま話題のAIを使った人事ソリューションの日本展開を担当されています。また、ご家庭ではお子さんをプログラミングの学習スクールに通わせているそうです。最先端を走るIT企業のビジネスマンの視点から、同時に1人の父親として、AIの現状や日本のIT環境の未来、プログラミング教育を子育てに取り入れた理由についてお聞きしました。

Profile:河野 英太郎

1973年岐阜県生まれ。東京大学文学部卒業。同水泳部主将。グロービス経営大学院修了(MBA)。大手広告代理店、外資系コンサルティング会社等を経て、2002年より外資系IT企業に転職。コンサルティングサービス、人事部門、若手育成部門リーダーなどを歴任し、現在はAIを活用した人材系ソリューションの日本展開を担当。著書の『99%の人がしていない たった1%の仕事のコツ』『99%の人がしていない たった1%のリーダーのコツ』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)は累計100万部を超えるベストセラーに。

AIの時代はもうすぐそこまできている

――日本のITへの取り組みは、世界に比べて大きく遅れをとっていると言われています。

そうですね。僕は外資系のIT企業で「コグニティブ・コンピューティング・システム(以下、コグニティブ)」のプロジェクトに携わっています。コグニティブとは日本語で「認知」の意味で、「ある事柄についてコンピュータが言葉を理解して自ら考え、学習し、人の意思決定を支援するシステム」のことです。よく使われる言葉で言うと「AI」や「人工知能」ですね。

僕はそのコグニティブの人事ソリューション担当として日本での展開を進めていますが、欧米ではかなり浸透しています。

――コグニティブはどのようなシーンで活躍しているんですか?

たとえば、導入した銀行のコールセンターでは、電話口の声からお客様の意図を割り出し、話の内容に沿っておすすめの商品や情報を瞬時に提示します。人事の例では、採用応募で送られてきた数千枚の履歴書を会社のニーズに合わせて振り分けたりします。この人は会わなくていい、この人は会うべきだって。

営業のノルマを決めるのにもコグニティブは役立ちます。大量のデータとその分析にもとづいているので、ぶれることなく的確な提案をしてくれます。

――すごく便利になりそうですが、人間の仕事が減ってしまうという話もありますね。

そこが、日本が遅れをとっている原因でもあります。誤解があるんです。導入したらなんでも勝手にやってくれるわけではなく、学習させる必要がありますし、何事においても最終判断は人が行います。

――先ほどの人事の例でも、振り分けられた履歴書をもとに最終的に面接して合否を決めるのは、人間が行うということですよね。

そうです。以前、ある難病に対して有能な医師でも考えつかなかった治療法をコグニティブが提示して、飛躍的な効果を出したことがありました。世界中で発表されている何万、何十万もの論文から導き出したんです。人間の能力でできることではありません。

ですが、治療を実行するのは人間。クリエイティブな発想もコグニティブにはできませんから、役割のすみ分けがうまくできていくと思うんですよね。

――コグニティブが当たり前のように身近にある時代は、いつくると思われますか?

本当にすぐですよ。普及バージョンもどんどん出てきています。

文系も理系も関係なくプログラミングを学ぶべき

――子どもに対するIT教育も重要になってきそうですね。2020年から小学校でプログラミング教育が必修化されます。

小さいころから触れておくことで、ITの環境に違和感なく入っていけるようになると思います。

4月から中学生になる僕の娘は、受験勉強でiPhoneの音声アシスタント「Siri」を辞書代わりに活用していました。そのうち、AIと会話しながら勉強するようになる。いまはそういう時代なんです。子どもは興味を持てば勝手に吸収していきますから、最先端のことをどんどんやらせればいいと思います。

――河野さんのお子さんは、すでにプログラミング学習をはじめているんですか?

下の息子は小学3年生のころからロボットプログラミングのスクールに通っています。

――プログラミングをはじめてお子さんに変化はありましたか?

何より重要だと思うのは、論理的な思考が養われることですね。ロボットをつくるためには何が必要で、どう組み合わせるべきか、動かなかったらその理由は何か、自分で考えるようになりますから。

――プログラミングの習得に留まらない効果があるんですね。

足し算や引き算といった算数で学ぶことを学習できるのはもちろん、国語における読解力の向上まで、さまざまな学習要素や効果があると思いますね。

文系を目指すからプログラミングは意味がない、なんてことはなく、積極的に取り組んだほうがいい。文学部を卒業した僕がコグニティブに関わっているように、社会に出たら理系も文系も関係ない場面も多いですから。続けていると、ほかの勉強や日常生活にも良い効果があらわれてくると思います。

英語もプログラミングも、子どもたちの未来の選択肢になる

――河野さんのお子さんは、小さいころからパソコンに触れる環境があったのでしょうか?

小学校に入ったころからやっていました。特に上の娘は僕や妻が家で仕事をするのを見ているので、自然に触れるようになりましたね。小学校ではパソコンクラブのリーダーを務めていましたし、ブラインドタッチもできます。プログラミングにも興味を持っています。

パソコンは受験の前日まで毎日やっていました。1日30分と決めていましたが、彼女にとってはいい息抜きになっていたようです。今では、受験が終わるまで1年間我慢させたマインクラフトにハマっています。

――まさに、「リケジョ」ですね(笑)。

そうなんです(笑)。中学に入る時点で理系に進むと決めて、理系に特化したコースがある学校を自分で選びました。最先端の設備を整え、入学すると全員にパソコンやタブレットを渡すような学校なんです。

――娘さんが自分で学校を決めたんですか?

もちろん僕や妻が情報を与え、学校訪問などをしたうえでのことですが、旧い価値観の僕らの選択肢にはない学校だったので驚きました。

冷静になって自分に置き換えて考えると、旧態依然とした企業とフェイスブックのような新興企業のどちらに行きたいかといったら、僕もフェイスブックを選ぶと思います。ブランドや伝統も大事ですが、いろいろな可能性にチャレンジできたほうがおもしろい。子どもにはいまのフェイスブックみたいなところで働いてほしいですから、娘が選んだ進学先はいいと思います。

――お子さんの意志を尊重した教育をされていますね。

押し付けている部分はあると思いますよ。本人からも言われますし(笑)。ですが、僕の両親も条件をつけつつ、自由にやらせてくれた。僕も子どもたちに選択肢を与えて、本人が希望するものをやらせてあげたいと思います。

――お子さんの教育で意識して行っていることはありますか?

図鑑やテレビの情報番組を見せるなどして、視野を広げるための情報はたくさん与えるようにしました。

それから1年に1度は海外に行くようにしています。今まで中国、タイ、アメリカ、スペイン、イタリアなどに行きました。小さいから断片的にしか覚えてないだろうし、ニューヨークで一番おもしろかったのは「アメリカ自然史博物館で見たカエル」なんて言っているくらいですが(笑)。行ったという経験があるだけでも、次に訪れたときに捉え方がまったく違ってくると思うんです。

――お子さんには将来、海外に出てほしいと思いますか?

英語は勉強させていますし、明確に海外に出るべきだと言っています。いまの日本は高校の卒業生が僕らの世代の半分になっていますが、大学の定員数はさほど変わっていません。つまり、大学受験だけでもやるべきことがまったく違うと思うんです。ゆとりがあると、スポーツなど勉強以外のことも打ち込めるのでいい面もありますが、日本にいる若者は、その分世界に目を向けて自分の時間を割いてみるべきだと思うんですよ。

自分の子どもたちには世界の優秀な学生と切磋琢磨しながら実力を伸ばし、海外で勝負できる人間になってほしいと思っています。

――理系コースに進む娘さんも、海外の大学を見すえているのでしょうか?

何年か前、白熱授業系の番組が流行ったときに、アメリカの「マサチューセッツ工科大学(以下、MIT)」を特集した番組を見せたことがありました。そうしたら娘が、「20歳の私」という学校の課題作文に「MITに通ってノーベル賞を目指します」と書いたんです。それを読んだ次の年はボストン、ニューヨークに連れて行きましたよ。「鉄は熱いうちに打て」と思って(笑)。

娘がMITに行けるかわかりませんが、そういった視野を持って勉強に取り組んでくれたら、親としては本当にうれしい。

グローバル人材を育てるために、IT教育を早く行うべき

――娘さんが社会に出るのはおよそ10年後。日本の社会はどうなっていると考えていますか?

今から10年前というと、ちょうどiPhoneが出た時期ですよね。それまで携帯電話の技術は日本が世界一だと言われていましたが、この10年でガラリと変わりました。いまやスマートフォンで何でもできてしまって、「ガラケー」は生産終了も発表されている。技術進歩のスピードを考えると、もっととんでもないことが起こっているかもしれません。

――10年前は日本もまだ勝負できていたのに、いまは大きく遅れて、優れたコグニティブなどをつくれるような状況にない。このままどうなってしまうんでしょう?

実は、僕はそれほど悲観していないんです。21世紀のはじめに政府が「e-Japan戦略」を打ち出して、ブロードバンドの普及やデータ通信料の改正に取り組んだことで、通信速度は世界と伍するものになりました。

物理や化学の分野で毎年のように出ているノーベル賞も政府が投資してきた結果。国家戦略を立てて本気で取り組めば、世界に渡り合うだけの底力はあるはずです。

――その人材を養うためのIT教育も、世界ではかなり遅れをとっています。

いまの若者はタイピングすらできないと言われますが、フリック入力をさせたらすごく早かったりする。フリック入力で論文を書いてしまう学生もいるほどです。音声入力もあるし、タイピングを使う機会がないだけで、ITに関しては僕らより上手に使いこなしていると思います。

――なるほど。これから盛り返すことも十分にありますね。

だからといって楽観視しすぎるのもよくありません。しっかりした教育は重要です。先にも触れましたが、プログラミングを理解しているか否かで、発想や会話、取り組むプロジェクトなどのクオリティも変わってきます。これからの世界で活躍する人材を育てるためにも、IT教育は一刻も早くはじめたほうがいいと思いますね。

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