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INTERVIEWプログラミング教育について、識者と考えます

子どもはなぜ「マインクラフト」に夢中になるのか?
プログラミング教育にマインクラフトが役立つ理由

取材・文 山崎潤子/写真 大野真人

大人はもちろん、子どもたちに大人気のゲーム「Minecraft」(マインクラフト)。ゲームとしての要素はもちろん、遊びながらプログラミングの基礎を学べることから、プログラミング教育のツールとしても注目されています。マインクラフトでどんなことができるのか、どんなことが学べるのかなど、マインクラフトのレッドストーン回路解説で有名な赤石先生に聞いてみました。

Profile:赤石先生

エンジニアとして勤務するかたわら、マインクラフトのレッドストーン回路の解説者として活動。YouTubeやニコニコ動画において、マインクラフトのプレイ動画投稿で人気を集める、マイクラ界のヒーロー。PlayStation.comのマイクラ部では部長を務め、動画や全国キャラバンの講座で活躍中。マインクラフト(特にレッドストーン回路)に関する著書・連載多数。名前の由来は“レッドストーン”回路から。

子どもたちに大ブームのマインクラフト

──いま、子どもたちの間でマインクラフトが人気だそうですね。

2009年にスウェーデンで開発されたゲームで、根強い人気が続いています。ゲームの売上総数は全世界で1億本を突破したそうです。最近は知名度も上がって、プレイしたことがない人でも名前は知っていますよね。大人はもちろん子どもたちに人気があって、子どものプレイ人口はものすごい数になっていると思います。

──赤石先生のイベントに来る子どもたちはどのくらいの年齢ですか?

昨年くらいまでは小学校の中高学年の子どもたちがメインでしたが、今年は低学年の子どもも増えました。それから、以前は男の子ばかりでしたが、最近は女の子も多いですよ。

──小さな子どもでもプレイできるんですね。

私が知るかぎりでは2歳からはじめた子もいます。彼はいま6歳ですが、驚くほどくわしいんですよ。

──子どもたちは、何がきっかけでマインクラフトをはじめるのでしょうか?

もともとマインクラフトは動画投稿によって広まったゲームですが、子どもたちもYouTubeなどがきっかけになっています。いまはテレビよりも動画を見る子どもたちが増えていますよね。友だち同士での「あの動画がおもしろいよ」という口コミの効果も大きいようです。

マインクラフトでプログラミングが学習できる

──マインクラフトは、どんなゲームですか?

わかりやすく言うと、立方体のブロックで世界を構築していく積み木のようなゲームです。さまざまなブロックを自由に組み立てて、ゲーム内で家やお城を建てることができます。ポイントは「動かすしくみ」もつくれるところです。

──ただの積み木ではないということですね?

はい。ブロックの種類によって性質も違いますし、さまざまなギミック(しかけ)をつくれます。マインクラフトは真っ白なキャンバスのようなもので、そこに自分たちがつくりたいものを形にしていくイメージのゲームです。

──マインクラフトがプログラミング教育に役立つと聞いたのですが。

PC版のマインクラフトには「コンピュータクラフト」という「MOD」(拡張データ)があります。このコンピュータクラフトを使うと、まさにプログラミングができます。文字(コード)を打って、ゲームの中でいろいろなものを動かせるわけです。

──すごいですね。でも、なんだか難しそうです。

普通にプログラミングを学ぼうとすると、たしかに文字(コード)だけでおもしろくないかもしれませんが、マインクラフトなら、「このコードを入れればこんなことが起こる」という結果をすぐ目で見ることができます。結果が見えることで、プログラミングのしくみを理解しやすくなります。

──つまり、子どもがプログラミングの基礎を学ぶのに適したツールであると?

楽しみながらプログラミングの第一歩が学べます。

──マインクラフトが好きな子どもは、理科や算数も好きなんですか?

子どもの場合、ゲーム自体を好きになるかが重要なので、あまり差はないと思います。大人は「マイクラ好き=理数系やモノづくりが好きな人」というイメージがありますが、子どもはまだ「自分はこういう人間だ」とはっきり決まっていません。ですから、誰でもなじめると思います。

──プログラミングを学ぶことで、ふだんの学習に役立つことはありますか?

プログラムとは、ある目的を達成するためにどんな処理が必要なのかを試行錯誤することで、それは実際の学習にも大いにつながると思います。「こういうことを知りたい。ではどうすればよいのか」というプロセスを自分で考えられるのは、学習能力を伸ばすために役立つと思います。

──数学でいえば、公式を自分で導き出すようなイメージでしょうか?

そうですね。プログラミングを学ぶことで「どんな難しい問題も、小さな基礎の積み重ねである」ことがわかると思います。

──マインクラフトをはじめるには、パソコンが必要ですか?

プラットフォームの多さもマインクラフトの魅力の一つです。はじめやすいのはPE(ポケットエディション)版で、スマホやタブレットのアプリを購入すればプレイできます。もちろんPlayStation(Vita/3/4)、Xbox(One/360)、Wii Uなどのゲーム機でもプレイできます。PC版でないとMODはありませんが、「レッドストーン回路」というものを使うことができます。

遊びながらプログラミングの基礎が身につくレッドストーン

──赤石先生が得意とする「レッドストーン回路」について教えてください。

「レッドストーン回路」は、装置を動かしたり、制御したりするための体系のようなものです。先ほど紹介したコンピュータクラフトはPC版でないと使えませんが、レッドストーン回路はどのマインクラフトでも使えます。文字(コード)ではなく、さまざまな指示を出せる部品を組み合わせて、モノを動かすしくみになっています。

──レッドストーン回路でも、プログラミングを学ぶことはできるんですか?

プログラムは指示の組み合わせです。レッドストーン回路も同じように、回路を組み合わせることで目的の動作を実現するわけです。レッドストーン回路ではコードは打ちませんが、入力・出力があるという意味では広義のプログラミングと言えると思います。

──たとえば、立つ・歩く・座るみたいな基本動作を組み合わせてダンスを踊るような?

そういうことです。レッドストーン回路は、厳密にいうと「論理回路」という電子回路を使用しています。論理回路も机の上で勉強すると難しいし、つまらないのですが、レッドストーン回路を使えば楽しく身につきます。

──レッドストーン回路を使うことで、プログラミングの基礎を体験できるというわけですね。

マインクラフトで遊んでいると、知らず知らずのうちにプログラミングの基礎、論理回路を学べてしまうというのがおもしろいですよね。

マインクラフトで身につくすごい能力

──具体的にはレッドストーン回路を使って、どんなことができるのでしょうか?

簡単なのは明かりをつけたり、離れたドアを開けたりする動作です。もう少し頑張ると自動ドアや大砲をつくれたり、さらに頑張るとエレベーターをつくれたりもします。

──普通のゲームにはない遊び方ですよね。

自分を強くして敵を倒したり、謎を解いたりというのが一般的なゲームですが、自分でしかけをつくって操作できるのは、マインクラフトならではの遊び方だと思います。

──どう指示を組み合わせるかを自分で考えて、目的を達成するわけですよね。

しかけをつくるには「最初にこれがこうなって、次はあれをこうして……」という組み合わせの順番が重要です。そういったシーケンスを考えていく行程は、プログラミングと同じですよね。試行錯誤しながら導き出すのがマインクラフトの楽しさだと思います。うまくいかなかったときは、どこが問題なのかを考えなければいけない。問題解決力が身につきます。うまくいったときは「もっとコンパクトにできないか」と、次の段階を考えるようになります。無駄を省いたり、他のものに置き換えたりして効率化していくという、リファクタリング(改善)の能力も身につきます。

──それは将来的にも生きてきそうですね。発想力や創造力も養えそうです。

たとえばエレベーターをつくりたいと思っても、そう簡単ではありません。あきらめるという選択もありますが、別の方法を見つけることもできます。たとえば簡易エレベーターをつくるとか、床が動く処理を変えてみるとか。いろいろな発想を試したり、動画や友だちから情報収集をしたりと、たくさんのアプローチができるところもマインクラフトの魅力ですよね。

自由なフィールドで、自分だけの遊び方ができる

──実は私もマインクラフトの体験版を少しだけプレイしたことがあるのですが、最初海辺に放り出されて途方にくれました。

マインクラフトはとても不親切なゲームですから(笑)。チュートリアルがないので自分で情報収集するか、試行錯誤するしかないんです。

──不親切でやりにくくありませんか?

それがマインクラフトのよさなんです。ゲームの中では「こうしなければならない」という制約はありません。「材料やツールは準備したから自由に遊んでください」というのが製作者のスタンスだと思います。実際に、製作者が想像もしなかった遊び方をしているケースがたくさんあると思いますよ。

──子どものほうが柔軟性があるので、入りやすいのかもしれませんね。

自由度が高いからこそ、子どものころからはじめたほうが楽しめると思います。RPG慣れした大人は、ある程度決まったルートを求めてしまいますよね。大人がマインクラフトを見ると「難しそう」と感じるようですが、子どもにとっては簡単みたいです。

──赤石先生のイベントはどんな雰囲気ですか?

マイクラ部のキャラバンなどでは、カジュアルな講義スタイルで進めていくことが多いですが、こちらが一方的に教えるのではなく、「これわかる?」「わかる!」「じゃあこれは?」といった掛け合いで一緒に考えながら進めていくことが多いですね。子どもたちは大人よりもくわしいですよ。

──マインクラフトが多くのファンを引きつけるのは、どんなところに理由があるのでしょうか?

ブームが何年も続いている理由は、遊び方が決まっていないところかもしれません。マインクラフトには、ストーリーも、ルートも、ゴールもありません。だから、好きな人はずっと遊べます。

──みんなで何かをするといった体験もできますか?

ゲームの中ではシングルプレイかマルチプレイを選べますが、マルチプレイなら友だちと一緒に遊ぶことができます。1人では難しいことも何人か集まればできる。みんなで計画を立ててから進めたり、作業をする中でフォローしあったり、チームワークの大切さも学べると思いますよ。

──コミュニケーションという楽しみもあるんですね。

遊び方が無限だから、情報交換が楽しいんです。私自身、何年もやっているのに、いまだに「こんなこともできるんだ!」という新しい発見があります。興味を持った子どもたちには、ぜひ体験してほしいと思います。

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