授業への理解が深まる!ICTを活用した授業のメリットとは

文 星政明/写真 加藤甫
現在の保護者世代が中学生だった頃は、黒板と紙を使った、教師から生徒への一方通行的な授業が一般的だったことでしょう。しかし、スマホやタブレット、PCなどのICT機器が日常的に利用されるようになった今、教育の現場でもそれらを活用しようとする動きが活発になっています。最先端の教育現場ではどのような使われ方をしているのか、愛知県の公立中学校で理科教諭を務め、ICTの活用を積極的に行っている岩田智文先生にお話をうかがいました。

Profile:岩田智文
愛知教育大学卒業後、愛知県江南市立西部中学校教諭に着任。担当教科は理科。初任時よりICT機器を用いた教育に積極的に取り組んでいる。平成26年度より愛知県総合教育センターシステム研究室の協力研究員も務めている。
ICT導入のきっかけは、
元素を画像やアニメーションで学べるアプリ
――岩田先生がICTを利用した授業を始めた時期、きっかけを教えてください。
ICTを使った教育を始めたのは、初代iPadに出会ったことがきっかけです。「世界で一番美しい元素図鑑」という、画像や動画などのビジュアルを使って元素を解説するアプリがあるのですが、そのおもしろさやわかりやすさに感動して。これを生徒たちに見せてあげたいという思いから、iPadを利用した授業を行うことになりました。しかし、サブ教材的に画像やアニメーションを見せて、理解を助けるのに使う程度でした。

――今もiPadを利用した授業を行っているのでしょうか。
現在、主に利用しているシステムは、富士ソフトの教育支援システム「みらいスクールステーション(※)」です。今から5年くらい前に利用する機会があり、これを使えば授業を円滑に行えると確信して、本格的に導入を始めました。
――「みらいスクールステーション」のシステムを、具体的にどのように活用しているのでしょうか。
毎回の授業で「みらいスクールステーション」のシステムを利用しているわけではありませんが、このシステムを利用し、主に大型ディスプレイ・タブレット・書画カメラを連携させています。まずは、みらいスクールステーションの「投票ユニット」機能。生徒用タブレットに問題を表示して、生徒に回答させる機能です。教師用タブレットと大型ディスプレイを連携させ、投票結果を大型ディスプレイに表示しています。テレビの「dボタン」を押すと表示されるアンケート画面をイメージしてください。「投票ユニット」を利用して、授業開始時に5分間の小テストを行ったり、授業中に出た質問に答えさせたりすることで、生徒がつまずきやすいポイントを知り、対策をすることができます。また、生徒がタブレット上で回答した結果はすぐに円グラフで表されるので、学級全体の考えや理解度も把握できます。


――投票ユニットを利用することにどんなメリットがありますか。
投票ユニットを利用するメリットは、生徒の授業への積極性が上がることです。中学生になると、挙手で回答を求めても、リアクションをしない生徒が多くなります。その多くは、答えが間違っていたら恥ずかしいからということみたいです(笑)。しかし、投票ユニットなら、誰が回答したのかはオープンにならないので、全員が主体的に参加できるようになります。積極的になると理解が深まります。そのため、教師も生徒に対して質問をして、考えさせる時間を増やしていこうという意欲が増していきます。
――書画カメラは、どのように利用されていますか。
理科室に常設した書画カメラと大型ディスプレイを連携させています。書画カメラとは、実験中の手元や、紙にかいたイラスト、文字などをディスプレイに表示するために利用する機器です。本校で活用している書画カメラは無線LANに接続でき、バッテリーも搭載した完全ワイヤレスタイプ。これを用いて、実験のお手本や、上手にとれたノートを大型ディスプレイに写しています。生徒のノートを共有するメリットは、生徒同士の刺激になることです。教師がサンプルを示すだけでなく、生徒同士の横のつながりで見本を示しあうことで、モチベーションがアップする姿をたくさん見てきました。
――他にはどのような利用方法をされていますか。
本校では、授業内容に応じて、生徒4人に1台または2人に1台、タブレットを使用し、主に授業支援の機能を利用しています。大型ディスプレイに表示するのと同じスライドを生徒のタブレットに配信し、書き込みをさせることで、授業の理解を深めるのが目的です。また、実験結果をまとめることにも利用して、生徒が書いた意見をリアルタイムで確認したり、集約したりすることにも活用しています。
※「みらいスクールステーション」とは、メディアボックスという専用端末をLANと大型ディスプレイやプロジェクタに接続することで、書画カメラ、電子黒板、タブレットなどの機器と連携して利用することが可能となる授業支援システム。生徒のタブレット上での回答を、大型ディスプレイで表示したり、リモコンを使って簡単に教材データを表示させたりと、スムーズな授業の進行をサポートする。

ICTを導入して生徒の積極性がアップ
――ICTを利用することでどんなメリットを感じますか。
50分という限られた授業時間を有効に利用できることです。画像やアニメーションを使って解説することができるので、実験の説明などを短時間で行えます。また、板書の一部をデジタル化することで、書く時間を短縮できるのもメリットです。そうして作り出した時間を、生徒が自分の言葉で考えを発表する時間にあてています。同時に、生徒には情報量の多い授業の中で、取捨選択をするように指導しています。与えられたものすべてをノートに記入していてはきりがないので、何が重要なのかを選ばせながら授業を進めています。自主的に考えることで、授業に対する理解が深まると思います。
――授業の時間を有効に活用できるようになったわけですね。
理解度が深まるのは、一人ひとりだけではなく、学級全体でもそうだと感じています。学級内には多様な生徒が混在しています。情報処理において、視覚、聴覚、言語、画像など、生徒によって得意不得意な分野が異なります。そのため、紙と黒板だけの授業では、すべての生徒の理解をフォローしきれません。そこで役立つのがICTです。字幕付き映像資料やアニメーションなどの教材を利用できるので、あらゆる生徒の関心にそった授業ができるようになりました。
――ICTを授業に導入して、意外に感じることはありましたか。
ICTを導入した当初は、なにもかもデジタル化に走っていました。しかし、デジタルが全面的にすぐれているわけではなく、授業内容によっては従来の紙と黒板で授業をしたほうが、意図をわかりやすく表現できることがあります。その結果、よりわかりやすい授業をするためには、どちらを採用すればいいか考える機会が増えました。生徒にもその考えが定着してきており、「実験のまとめを何で行いたい?」と問いかけると、生徒は内容により模造紙などへの手書きや、PowerPointのスライドを選択して使い分けています。

プログラミングを学習することで、
AIやロボットの改善点を発見できるようになる
――小学校でプログラミング教育の必修化が決まりました。子どもたちにどのようなことを学んでほしいのか、岩田先生の考えを教えてください。
文部科学省の方針に従うと、各教科のなかにプログラミング的思考を育てる課題を織り込むことになります。各教科の特質に応じた学習活動を通して、論理的な思考力とともに、多面的なものの考え方が身に付くのでないかと思います。
また、プログラムを開発する際に行われる「トライ&エラー」の考えが育まれることも期待しています。失敗してもまたやり直せばいいことに気づき、粘り強く学習に取り組む姿勢が、児童や生徒に身に付くとうれしいですね。同時に、正解のない問題・課題にも果敢に取り組む意欲が身につくとよいと思います。子どもたちがプログラミングを学び、「ものづくり×プログラミング」で将来の日本を支えていく人材になってほしいですし、経済産業省が予測しているIT人材の不足解消につながってほしいと思っています。

――岩田先生は、プログラミング教育にどのように対応される予定ですか。
理科の実験を、フローチャートで場合分けすることによって、プログラミング的思考を育てられると考えています。例えば、無色透明の水溶液(塩酸・食塩水・水酸化ナトリウム水溶液・砂糖水・アンモニア水)などを仕分けする際に手順や試験薬を場合分けしてフローチャートに起こす作業は、プログラミング的思考そのものです。
もちろんPCを利用した授業も行っていきたいです。例えば、電気分解の実験で実践したいです。電圧を30秒ごとに上げていくと同時に音を鳴らし時間を計るタイマー機能をプログラミングでつくれば、実験もしつつ、プログラミング的思考力の育成につながると思います。
――ICTは未来の教育にどのような効果をもたらし、変化していくか、先生のご意見をお聞かせ下さい。
今は、世界が急激に変改しています。AIが普及し、ロボットが活躍する時代になりました。今後ますますその流れは加速し、知的労働の多くをAIが担い、単純作業はロボットが担うようになると思います。そして、そんな時代に人に必要とされるのは、AIやロボットに指示し、改良する能力です。AIやロボットの動きを見て「ここを改善する必要がある」「ここを変えると効率がよくなる」といったような改善点を見つける力を、学校にいる間に身に付けさせたいですね。
そんな変化の激しい時代を勝ち抜くためにもプログラミングは必要になってきます。未来の教育では、プログラミングが科目になるかもしれないと考えています。現に海外では「コンピューティング」「エンジニアリング」という教科が存在します。
一方、プログラミングも大切ですが、正解のない問題や、どれもが正解というような問題に意欲的に取り組んでいく必要があります。学校では知識を詰め込むのではなく、自分の考えを相手に伝え、相手の考えを聞いて自分に置き換えてどのように行動するべきかを考える。そういった力を身に付けるような教育が必要になっていくと感じます。来たるべきAI時代を乗り越えるたくましい人材を育成するために、今、目の前の生徒たちを指導していきたいですね。
