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第8回 来たるべき「やる気格差社会」に向けて

  • 連載 大川翔
  • 2019.10.2

大川翔(おおかわ・しょう)

1999年生まれ。5歳のときカナダへ。9歳でカナダ政府にギフティッドと認定され、12歳で中学を飛び級し高校進学。2014年春、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)、マギル大学、トロント大学などカナダ名門5大学に奨学金付きで合格し、話題となる。同年6月、14歳でトーマス・ヘイニー高校卒業。同年9月、UBC入学。2015年1月、カナダ総督アカデミック・メダル賞受賞。2016年12月、UBCサイエンス学部長賞受賞。2017年夏、アメリカ・グラッドストーン研究所(山中伸弥教授)にてインターン。2018年5月、18歳でUBC卒業(バイオロジー・オナーズ)。同年7月、孫正義育英財団第2期生に合格。同年8月から、東京大学先端科学技術研究センター(谷内江望准教授)にて研究開始。2019年4月、19歳で慶應義塾大学大学院(修士課程)入学。同年8月からトロント大学にて研究中(東大先端研とトロント大学の共同研究に従事)。著書に『ザ・ギフティッド 14歳でカナダのトップ大学に合格した天才児の勉強法』(扶桑社)、『僕が14歳で名門5大学に合格したわけ』(学研プラス)がある。

やる気+方法論で勉強がもっと得意になる!

僕の母は学生時代に塾講師をしており、司法試験に合格した後は予備校、大学、法科大学院で教鞭をとっていました。教えること自体が好きで、得意だったと聞いています。ですから僕の家庭には、勉強の方法論がある程度確立されていたという点において、勉強面でのアドバンテージがあったのだと思います。そうした理由からか、プログラミングなど、まったく新しい分野を学ぶときも、比較的スムーズに学習できている気がします。

実際に母は、創立以来1人も司法試験合格者が出ていない大学から、「5年以内に司法試験合格者を出してほしい」という依頼を引き受け、それから3年後に合格者を出すことに成功しています。それも、現役合格も含め、いきなり2名の合格者を出しました。そのため、大学に問い合わせが殺到したそうです。依頼を引き受けたのは、やる気と方法論さえあれば、どんな大学からでも難関試験に合格できるのだということを証明したかったからだ、と母は言っていました。母曰く、「やる気はあるのに勉強のしかたがわからないという人は大勢いる。誰でも可能とまでは言わないが、自分の経験からも、勉強のしかたさえわかれば変われる可能性は常にあるのだ」ということだそうです。

母が持っている勉強の方法論が、僕への指導に活かされた場面は数多くあったと思います。幸いなことに本を書く機会に恵まれたので、自分の経験したことを『ザ・ギフティッド』に記しました。『ザ・ギフティッド』を上梓した後、多くの方々から、励ましの便りをいただきました。とくに嬉しかったのは、同世代や後輩にあたる中学生、小学生からの感想です。いろいろ参考になったとか、面白かったとか、感動したとか、やる気になったとか、さまざまな言葉をもらいました。公立中学校の校長先生が、勉強するときの参考にと、朝礼で僕の本の話をしてくださったこともありました。僕が伝えられたのはほんのわずかのことかもしれませんが、勉強のコツやモチベーションを高める方法などを紹介でき、皆さんの役に立てたことを嬉しく思っています。

勉強は情報戦。有効な情報を手に入れられるかが勝負のカギ

勉強の方法論といえば、昔は限られた一部の人にしか、有効な情報がまわってきませんでした。そのため、情報にアクセスできない人は、なかなか思うように結果が出せませんでした。

しかし、そのうちに、塾や予備校がつくられて、一般の層に向けても情報が公開されるようになりました。それまで学校の先生や一部の家庭だけが持っていた情報を、お金を出せば買うことができるようになったのです。ただ、それでも今はまだ過渡期で、これからさらに時代は変わるでしょう。情報の無料公開度が上がってくるだろう、と僕は予想しています。

お金をかけずに受験を乗り切る時代がやってくる

僕の場合は、塾や予備校に通ったことがありません。家の近くになかったからです。そのため、教材費以外はあまりお金がかかっていません。代わりに通信教育と、あと家には売るほど教材があったので、その点はちょっと特殊だったと思いますが、これから先、僕のように、塾や予備校に通わずに希望する中学、高校、大学、資格試験の合格を勝ち取る人が増えると思います。

なぜなら、インターネットが情報の公開を飛躍的に促進したからです。情報の受け手に対し、送り手が優位に立っていた状況が変わり、情報のあり方も多様化してきました。今や、さまざまな分野について、実に多くの人々が個々の体験やくわしい情報を発信しています。それによって、ごく一部の体験者の間でしか知られていなかった口伝的な情報が、どんどん一般の層に向けて公開されています。情報の受け手として真偽を判断する能力は必要ですが、大抵の情報は、無料で、あるいはとても安価に手に入れられるようになってきています。つまり、これからやってくるのは、あらゆる情報がほとんど無料で公開される時代です。受験にしても、何をどれだけやれば合格できるかが明確にわかります。また、疑問があればネットで回答してくれる人たちがたくさんいます。

僕が実際に使っていたお気に入りの教材の一部。楽しく学ぶには、教材選びがとても重要だ。※写真左上の『トリンカ』、および写真右の『科学のタマゴ』は現在販売終了。写真左下の『アルゴ』は新装版の『アルゴ ベーシック』が学研プラスより発売中。世界100万部突破のベストセラーとなっている。

「勉強ができる」というマジックの種を解き明かそう

皆さんは、テレビなどでマジックを見て驚いた経験はありますか? 僕はCyrilのマジックが大好きで、よく見ていました。マジシャンはまるで超能力者です。不思議で仕方がありません。しかし、どんなにすごいマジックにも、必ず種があります。種を知ったとたん、なあんだという気持ちになります。これは、勉強も同じです。勉強ができる人に対して、人は不思議に思います。「なんでそんなにできるんだ? そうか彼は天才なんだ、だからできる。彼はなにもしなくてもできる。」と、まるでマジックを巧みに操るマジシャンのごとく言われます。しかし、天才と片付けて終わりにしてしまうのは、思考を停止してしまっている気がします。マジックを超能力だと思うのは、楽しくてよいかもしれませんが、勉強のときは、何かを見落としていると考えた方がよいのではないでしょうか。

『ザ・ギフティッド』で自分の勉強法を公開したときに、読者の方から「特別な人にしかできないようなことはなにも書いていない」とコメントをもらったことがあります。そう、その通り。特別な能力が必要なことなどなにもないのです。何度も言いますが、僕は天才ではありません。マジックと同様に、「勉強ができる」には種があるのです。僕は運よく、その種を知っていただけです。皆さんもぜひ、この種を解き明かしてみてください。僕に限らず、「勉強ができる」というマジックの種はすでに公開されているのです。

未来は「やる気格差社会」!? 行動すれば、未来の扉は大きく開く

さて、それでは、こんなに情報が公開されているのだからみんな勉強ができるようになっているのかというと、実はそうではないと思います。

自分から動いて情報にアクセスしようとする人は、できるようになるでしょう。どんどん勉強のノウハウを手に入れ、それを実行していくと思います。しかし、受け身のままでいたら、何も変わりません。情報が広く公開されつつある今だからこそ、情報に積極的にアクセスするかどうかで差がつくのです。

また、勉強だけに力を入れたからといって安心できる時代でもなくなってきています。なぜなら、今後は、日本の入試が学力だけでなく、他の能力と併せて評価する試験に変わる可能性があるからです。北米の入試は、例外もありますが、一般的にはいわゆる学力だけではなく、「大学へ入って何をやりたいのか」、「将来どんなことをしたいのか」という意欲面や、ボランティアやスポーツなどの課外活動、リーダーシップ力など、様々な能力を見て総合的に判断します。ですから、たとえばSAT(※1)で満点をとっても不合格になる、なんてこともありえるのです。日本でもAO入試など、推薦入試制度を取り入れたりしているので、だんだんと北米型入試に移行するのかもしれません。そうすると、学力以外の活動歴が重要視され、ますます能動的に動くことが要求されてくると思います。まあ、個人的には従来の日本型入試の方がすっきりしていて好きだったりするのですが、時代の波というものもあります。

同じ学校に通い、同じように勉強していたとして、一見、学力的には同じレベルに見えても、個人のモチベーションや行動力によって、実際に身についている力にはかなり差があると思います。そして、その傾向はこれからいっそう強くなるでしょう。受け身の状態ではすぐに追い抜かれてしまいます。「やる気勝負の時代」とでもいいましょうか、未来は「やる気格差社会」みたいになる気がしています。いままで一部の人しか知り得なかったノウハウが、惜しげもなく公開されています。これからは、知恵と努力と行動力の時代に移行していくことになると思うのです。勉強に限らず、やる気のある人にとって、チャンスは広がっている世界。未来の扉は大きく開いています。

(※1)SAT:アメリカにおける大学進学適性試験のこと。

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