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第7回 自調自考のすすめ

  • 連載 大川翔
  • 2019.8.14

大川翔(おおかわ・しょう)

1999年生まれ。5歳のときカナダへ。9歳でカナダ政府にギフティッドと認定され、12歳で中学を飛び級し高校進学。2014年春、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)、マギル大学、トロント大学などカナダ名門5大学に奨学金付きで合格し、話題となる。同年6月、14歳でトーマス・ヘイニー高校卒業。同年9月、UBC入学。2015年1月、カナダ総督アカデミック・メダル賞受賞。2016年12月、UBCサイエンス学部長賞受賞。2017年夏、アメリカ・グラッドストーン研究所(山中伸弥教授)にてインターン。2018年5月、18歳でUBC卒業(バイオロジー・オナーズ)。同年7月、孫正義育英財団第2期生に合格。同年8月から、東京大学先端科学技術研究センター(谷内江望准教授)にて研究開始。2019年4月、19歳で慶應義塾大学大学院(修士課程)入学。同年8月からトロント大学にて研究中(東大先端研とトロント大学の共同研究に従事)。著書に『ザ・ギフティッド 14歳でカナダのトップ大学に合格した天才児の勉強法』(扶桑社)、『僕が14歳で名門5大学に合格したわけ』(学研プラス)がある。

僕の中にある勉強の文化、「自調自考」について

「自調自考」とは、「自らの手で調べ、自らの頭で考える」という意味の言葉です。僕は、この「自調自考」というのが、プログラミングをはじめとした勉強を挫折せずに継続するための、ひとつのキーワードだと思っています。ちなみに、これは僕の造語ではありません。僕が受験した渋谷教育学園幕張中学校・高等学校(以下、渋幕)の教育目標のひとつです。

僕の中学受験の話

当時、僕はカナダで中学受験の勉強をしていましたが、小学校高学年くらいから、日本のいろいろな学校を研究し始めました。なぜかというと、僕は中学生になったら東京に戻る予定でいたので、両親から麻布学園麻布中学校(以下、麻布)をはじめとした、東京近郊の進学校を勧められていたからです。そのときに、進学校には難関校が多く、相当気合を入れて勉強しないと入学試験に合格できないということがわかりました。

ほかにも、学校を調べるうちに、なんとなくわかってきたことがあります。それは、進学校には2通りの校風があるということです。1つめは、生徒の時間を管理してガリガリ勉強させる学校で、2つめは、生徒の自主性を尊重し、あまり干渉しない学校です。両親に勧められた麻布は、後者の学校のようでした。というのも、父の叔父が麻布中高出身であったり、母の上司の息子さんが当時麻布に在学していたりと、けっこう馴染みのある学校だったので、話を聞くことができたのですが、昔も今も楽しそうなんです。規律もなく、学校に強制されることも何もないらしいのです。僕は自分でどんどん勉強していくタイプなので規則で縛られる環境は向いていないだろう、という理由から、両親は麻布を勧めたのだと思います。

こうして研究を進めていくなかで、いくつか候補を絞りました。僕は強制されるのではなく、自分のペースで勉強に取り組む方が向いていると思ったので、自由な校風の学校を選びました。それから、志望校は共学校に絞りました。男子校には男子校の良さがあると思いましたが、共学の方が楽しい学園生活を送れる気がしたからです。これはアニメやラノベの影響かもしれません。そうして選んだ学校は、渋幕、渋谷教育学園渋谷中学高等学校、都立立川国際中等教育学校、東京学芸大附属国際中等教育学校などです。結局、両親との話し合いの末、渋幕を第1志望にすることに決めました。渋幕は“共学の麻布”と称される進学校で、自由度は麻布並みと言われています。

そこで、渋幕の「自調自考」という言葉を見つけたのです。考え方が自分に合っているような気がして、僕はこの学校をいっぺんに気に入った覚えがあります。受験した結果、幸いにも合格することができたのですが、当時の僕は、迷いに迷った挙句、日本の渋幕に通うのではなく、カナダで飛び級することを選択しました。早く大学に行き、世界の謎に挑んでやろうという野心からです。もちろん、この選択を後悔していませんが、今でも、もし渋幕に通っていたら、楽しい学園生活を送ることができたんじゃないかと妄想することがあります。

人に言われて取り組んでも、勉強は楽しめない

僕が実際に通うことになった、カナダのトーマスヘイニー校も、生徒の自主性を尊重する学校で、僕にとっては本当に居心地が良かったです。ストレスフリーという感じでした。でも、自由な校風にはデメリットもあります。自主的にガンガン勉強するタイプの生徒には良いのですが、言われないとやらないタイプの生徒は苦労します。実際、落第する生徒もいるのです。カナダは小学生でも落第しますし、そのへんはちょっと厳しいんです。

日本の進学校の場合は、自主性に任せても大丈夫な生徒が入学してくるから問題ないのでしょうが、カナダの高校の場合は、試験などで選抜するわけではないので、この辺が大変です。

僕が思うに、結局、勉強というのは、自分で動機をつくって取り組むしかありません。だからこそ、僕は「自調自考」という姿勢が、物事をやり遂げるためのひとつの武器だと思うんですね。確かに、人に時間を管理されてガリガリ勉強すれば、成績は上がるかもしれません。でも、この方法では学習者は受身で、能動的に動いているわけではありません。同じように勉強ができるように見えたとしても、中身は異なると思います。

人にはもともと、知らないことを知りたいと思う欲求、内的なモチベーションが備わっています。これを利用して実際に行動にうつし、疑問に思ったことを調べるとよいのです。そうすると、また、知らないことや疑問に思うことが出てくるはずです。たったこれだけのことを繰り返すだけで、勉強への取り組み方が変わります。人に管理されて勉強するのは、モチベーションを外注するようなもので、それではなかなか「勉強自体を楽しむ」という境地には到達できないと思うのです。

渋幕の大学合格実績の秘訣

実は、僕が受験した渋幕は、とても優秀な大学合格実績を出しています。勉強を強制せず、生徒の自主性を重んじる校風である上に、受験には不利と言われる共学校であるにも関わらず、渋幕は、毎年発表される高校別東大合格者数ランキングの上位校です。過去5年間、共学校でベスト10入りを維持し続けているのは渋幕だけです。

しかし、なぜ渋幕はここまで大学合格実績を伸ばせるのでしょうか? ここは考える必要があります。もともと学力が高い生徒が入学してくるから、良い合格実績を出せるというのはあるでしょう。しかし、最初からできる生徒だけが入学してくるわけではないですね。そうかと言って、学力で選抜したクラスを作り、ギリギリ勉強させるというパターンでもありません。その秘密は「自調自考」という姿勢を通じて、自ら学習する能力を育てていることにあるのではないかと、僕は推理しています。受身にならずに、能動的に行動する。その大切さを教えているから、これからも渋幕は合格実績を伸ばし続けると思います。「当たらずといえども遠からず」ではないでしょうか。

何かに疑問を感じることが、「自調自考」の第一歩

僕の著書『ザ・ギフティッド』で、二宮金治郎(尊徳)のことを紹介したことがあります(※1)。歩きながら勉強するという勉強法についてお話ししたのですが、ここで読者の方から質問が来ます。「金“次”郎ではないのですか?」と。そうなんです、一般的に知られている名は「金“次”郎」ですが、僕はわざと「金“治”郎」と書きました。なぜかというと、疑問に思う方が尊徳の名前を調べることで、彼への理解が深まることを期待したからです。事実は、尊徳の本当の名は「金“治”郎」が正しいです。生まれたときは「金“治”郎」と名付けられたのですが、一般には「金“次”郎」で定着してしまいました。さらには、尊徳自身も、自分で自分の名前を「金“次”郎」と書いたりしています。僕が想像するに、自分は「治める」ものではなく、「次ぐ」ものだと言いたかったのかもしれません。いや、グリム童話の『ルンペルシュティルツヒェン』に登場する小人や、日本の昔話の『大工と鬼六』に登場する鬼のように、本当の名前を隠すことによって、力を発揮しようとしたのかもしれません。真偽は不明です。けれど、そんなことを「ああでもない、こうでもない」と考えるのが僕は好きなのです。

もし、みなさんが僕の記事を読んで、何かに疑問を感じて、調べ、そして考えてくださるとしたら、こんなに嬉しいことはないです。

(※1)二宮尊徳というと、「薪を背負い、歩きながら本を読む姿」を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。『ザ・ギフティッド』で紹介したのは、彼の姿にちなんだ勉強法だ。実は、「歩きながら勉強する」というのは、脳が活性化して、非常に有効な勉強方法なのである。ただし、安全な場所でないと危険なので、実践する場合はくれぐれもご注意を。

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