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第5回 プログラミングを楽しく学ぶには

  • 連載 大川翔
  • 2019.5.20

大川翔(おおかわ・しょう)

1999年生まれ。5歳のときカナダへ。9歳でカナダ政府にギフティッドと認定され、12歳で中学を飛び級し高校へ進学。2014年春、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)、マギル大学、トロント大学などカナダ名門5大学に奨学金付きで合格し、話題となる。同年6月、14歳でトーマス・ヘイニー高校を卒業し、同年9月にUBCへ入学。2015年1月、カナダ政府からカナダ総督アカデミック・メダル賞受賞。2016年12月、UBCサイエンス学部長賞受賞。2017年夏、アメリカ・グラッドストーン研究所(山中伸弥教授)にてインターンを経験。2018年5月、18歳でUBCを卒業(バイオロジー・オナーズ)。同年7月、孫正義育英財団第2期生に合格。8月から、東京大学先端科学技術研究センター(谷内江望准教授)にて研究を開始する。2019年4月、19歳で慶應義塾大学大学院(修士課程)に入学。著書に『ザ・ギフティッド 14歳でカナダのトップ大学に合格した天才児の勉強法』(扶桑社)、『僕が14歳で名門5大学に合格したわけ』(学研プラス)がある。

プログラミングはアタマを良くするか?

知能の高さを表す指標として、IQ(知能指数)というものがあります。IQは言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度の評価点の合計を意味します。確かに、IQが高いといわれている人は、知識も豊富で、事務処理能力が高いです。しかし、「本当の意味でのアタマの良さ」を評価するには、それだけでは少し足りない気がします。なぜなら、「本当のアタマの良さ」には、新しい物事を発見したり、創造したりする力など、知能テストでは測れない別の能力が含まれてくると僕は考えているからです。「本当のアタマの良さ」とは、全く関係ない事柄に共通項を見出すような能力や、柔軟な発想力、決断力、それから、人を笑わせるユーモアのセンスや、人を感動させる力などを含んでいると思います。

そう考えると、「本当のアタマの良さ」を表す指標としては、EQ(情動指数)(※1)やHQ(人間性指数)(※2)と呼ばれるものの方がしっくりくる気がします。

(※1)EQ(Emotional Intelligence Quotient):自分の感情を認識し、自制する能力や、他者を共感的に理解する能力を測定する指数のこと。心理学博士であるダニエル・ゴールマンが提唱した。

(※2)HQ(Humanity Quotient):目的や夢に向かって、社会の中で協調的に生きるための能力を測定する指数のこと。「社会的な知能」と「感情的な知能」の複合的な評価であり、HQが高い人は、目的に向かって計画的に努力する能力が高いとされる。人間性脳科学研究所の所長である澤口俊之博士が提唱した。

どんな習い事がHQを鍛えることにつながるかは、研究者によって調査されています。その結果によると、HQを鍛える効果がある習い事は、「ピアノ」、「そろばん」、「サッカー」なのだそうです。 プログラミングは新しい習い事として注目されていますが、実はプログラミングもこのHQを鍛える習い事になるだろうと僕は思っています。なぜなら、プログラミングを学ぶことにより、能動的に動く姿勢や、発想力、問題解決力などを身につけることができるからです。特に、プログラミングの勉強は、論理数学的知性(※3)を鍛えるのに適しています。プログラミングは、いわゆる「アタマを良くする習い事」の代表格として定着することになるでしょう。

(※3)論理数学的知性:問題を論理的に分析したり、科学的に究明したり、数学的な記号を理解したりする能力をつかさどる知性。

習い事が嫌いになる2つの原因

将来のことを考え、習い事を選ぶ方も多いかもしれません。ただ、前回もお話ししたように、「学校で必修化されるから」、「身につけておくべきスキルだから」、などといった義務感から取り組むと、本来の楽しさが損なわれてしまうかもしれません。ここでは、習い事が嫌いになってしまう原因を2つ紹介したいと思います。

習い事が嫌いになる1つ目の原因は、「習い事が自分の好みや、向き不向きに合っていないこと」です。先に挙げた、HQを鍛える習い事の代表格であるピアノですが、「子どもの頃にピアノを習っていたが、実はいやでしかたなかった」という話を聞くことがあります。これはピアノに限らず、他の習い事でもよく聞く話です。これに対して、「自分の苦手なことを嫌々やるのではなく、自分の好きなことや、得意分野で勝負しましょう」と提案する方もいます。僕も、無理して不得意分野に取り組む必要はないと思いますし、得意分野で勝負するという意見には大賛成です。

ただ、習い事が自分に合っていないと思った時に、1つだけ注意しなければいけない点があると思っています。それが、習い事が嫌いになる2つ目の原因である、「指導者の教え方が自分に合っていないこと」です。

ピアノの例でも、正直なことを言うと、指導者の技量が足りなかったせいで音楽を心から楽しむことができず、ピアノが苦手になってしまった、というパターンもあると思います。僕自身がピアノを弾くということもあってか、ピアノを楽しく弾けなかったという話を聞くと、とても残念に思ってしまいます。

これはもちろん、プログラミングについても言えることです。「プログラミングは難しいに違いない」という先入観を持っていると、ちょっとしたつまずきで、自分はプログラミングに向いていないと判断してしまうかもしれません。けれど、良い指導者からのアドバイスがあれば、状況を変えることができると思います。本当はできるのに、教え方が合っていないせいで苦手意識をもっている可能性も大いにあると思うのです。


僕にピアノを教えてくれたアナ先生。先生の指導のおかげで、ピアノを楽しく続けられた。

プログラミングを楽しむには

それでは、難しそうなイメージのあるプログラミングを楽しく学ぶにはどうすれば良いか、僕自身の経験を紹介しながらお話ししたいと思います。

僕は昔、ダンス教室に入ったものの、1日で辞めてしまったという経験があります。理由は、あまり楽しくなかったからです。親も「無理する必要はない」と言い、あっさり辞めました。その後、学校の授業でダンスをやる機会があり、けっこう楽しいことを知りました。先生の乗せ方がうまかったのです。もちろんこれはタイミングだとか、先生との相性が良かったとか、良好な友人関係だとか、様々な要素が加わっての話ですが、やはり指導者の力量によるところが大きかったように思います。もしあの時、ダンスにハマっていたら、もしかしたら僕はダンサーを目指していたかもしれません。ちょっとした偶然で、未来は変わってしまう気がします。

「物理は難しくてよくわからないから、苦手」という話を聞きます。僕はJ−PARC(※4)を訪問したときに、多田将博士(※5)から物理の教えを受けたことがあります。多田博士はロン毛で金髪、ミリタリーオタク、アイドルオタクであり、見た目には博士に見えません。でも、何より話が楽しい方です。多田博士の講義は大変分かりやすく、面白く、思わず引き込まれます。きっと多田博士の講義を受けたなら、誰もが難解といわれる物理を理解し、好きになれるのではないか、とその時思ったのです。

(※4)J−PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex):世界最先端の大強度陽子加速器施設。

(※5)多田将:素粒子物理学者。高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所准教授。「J−PARC」の設計に携わった。

このように、楽しく学ぶという意味で、指導者というのはとても重要だと思います。指導者次第で、習い事が好きにも嫌いにもなり得るからです。プログラミングにチャレンジする時も、「難しい」と感じることや、「できない」という壁にぶつかることがあるかもしれませんが、そんな時、投げ出さずに最後まで取り組むためには、良い指導者が身近にいるというのが1つの解決方法だと思うのです。

結論として、習い事全般に言えるのは、「無理をして気乗りしない習い事をするのではなく、面白いこと、楽しいこと、好きになれる習い事を探して、その上で良い指導者を探すことが大事」ということです。プログラミングは大変面白く楽しいスキルですが、最初からできる人はいません。良い指導者に教わることで、自分で考え、工夫して、仕組みを作り、問題を解決していく楽しさを味わいながら、ゲームに没頭するようにプログラミングを楽しめるようになると思います。

受け身のままでは、運が良くなければ良い指導者に出会えませんが、行動していれば、巡り会える可能性は高まると思います。いろいろ試してみて、良い指導者に出会い、自分にあったやり方を見つけるのが一番。そういう意味でも、やはり行動することが大事ですね。

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