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第3回 研究の「面白さ」と「楽しさ」

  • 連載 大川翔
  • 2019.3.6

大川翔(おおかわ・しょう)

1999年生まれ。5歳のときカナダへ。9歳でカナダ政府にギフティッドと認定され、12歳で中学を飛び級し高校へ進学。2014年春、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)、マギル大学、トロント大学などカナダ名門5大学に奨学金付きで合格し、話題となる。同年6月、14歳でトーマス・ヘイニー高校を卒業し、同年9月にUBCへ入学。2015年1月、カナダ政府からカナダ総督アカデミック・メダル賞受賞。2016年12月、UBCサイエンス学部長賞受賞。2017年夏、アメリカ・グラッドストーン研究所(山中伸弥教授)にてインターンを経験。2018年5月、18歳でUBCを卒業(バイオロジー・オナーズ)。同年7月、孫正義育英財団第2期生に合格。8月から、東京大学先端科学技術研究センター(谷内江望准教授)にて研究を開始する。2019年4月、19歳で慶應義塾大学大学院(修士課程)に入学。著書に『ザ・ギフティッド 14歳でカナダのトップ大学に合格した天才児の勉強法』(扶桑社)、『僕が14歳で名門5大学に合格したわけ』(学研プラス)がある。

現場研究者の憂鬱

僕が生物学の分野に進もうとしたとき、いろいろ言われたことがあります。

「やめとけやめとけ、ありゃ宝くじみたいな研究分野だ。それに現場の実験は根気のいる単純作業の繰り返しだぞ。」

高学歴のサイエンティストというと、クールなイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、生物学の現場研究者の多くは、ピペット(※1)を用いた単純作業を日々繰り返しています。僕も、カナダのライフサイエンス研究所でピペットの使い方を覚えて以来、アメリカのグラッドストーン研究所でも、日本の東京大学先端科学技術研究所でも、毎日使っています。

(※1)ピペット(pipette):少量の液体を必要なだけ吸い取り、計量・移動させるための科学実験器具。

日々の研究は、とても地道で、先の見えない作業です。同じようなことを何度も繰り返し実験します。PI(※2)を支える現場研究者は、生物学の発展を担う縁の下の力持ち的な存在です。しかし、テニュア(※3)を持たない研究者の場合、生活が安定しにくいという現状もあります。博士号を取得した後、アカデミア(学究的世界)に残ろうとしてもなかなかテニュアのポジションに就けず、ポスドク(※4)として漂浪することも多いと聞きます。いろいろな研究室で研鑽を積むこと自体、とても有益ではあるのですが、最終的には自らもPIとなり研究室を主宰することを目指しているのに、なかなかそれができない。現実は、非常に厳しい世界です

(※2)PI(Principal Investigator):独立した研究室を持つ研究者(研究室主宰者)。研究グループの予算獲得や執行の責任者であり、大学院生などの指導にあたる。教授や准教授など。

(※3)テニュア(tenure):大学教職員等の終身雇用資格。

(※4)ポスドク(Postdoctoral Researcher):博士研究員。博士号は取得したが、正規の研究職または教育職についておらず、終身雇用資格をもたない、期限付きで雇用されている研究者。

ノーベル賞受賞者であり、孫正義育英財団の副代表でもある山中伸弥教授にお会いしたとき、「残念なことに、日本における研究者の地位は低いです。若い人たちに、研究者の仕事が魅力的なものに見えていません。一方、アメリカでは研究者の社会的地位が高く、研究者が若者たちの憧れの職業になっています。」ということを言われたことがあります。

山中伸弥教授が、フルマラソンに挑戦して完走しているのは、広報的な意味合いだけでなく、若き研究者やスタッフを支える研究資金集めのためでもあると思います。

学力が高ければ、収入を多く得て安定した生活が送れるのではないかと思う方もいるかもしれません。確かにそういう傾向もあるとは思いますが、必ずしも言い切れる話ではありません。

僕が高校生のころ(13歳のとき)、カナダで出会ったアメリカ人の医師に「君、将来何になりたいの?」と聞かれたことがあります。僕が「生命科学の研究者になりたい。」と答えたら、彼はこう言いました。

「そうか。俺は医者になったけど、学生時代を思い出してみるとね、最も成績の良かったやつが研究者になり、次に成績が良かったやつが医者になり、最も成績が悪かったやつが事業家になったんだよ。で、一番大金を稼いでいるのは誰だと思う?一番成績が悪かったやつなんだよ。その次に稼いでいるのは俺たち医者で、研究者はまあ、そこそこだな。つまり稼ぐ金の額は、成績と正反対だったわけだ。でもね、大事なのは、好きなことをやるってことだよ。」

「楽しむ気持ち」が原動力

こんなふうに話を聞くと、ひょっとしたらみなさんは、研究者として働くことにネガティブな印象を持つかもしれません。しかし、これは外から見た世界で、内側から見るとかなり印象が異なるのです。僕の少ない経験からでもわかることですが、研究者たちは嬉々として研究に取り組んでいます。ワイワイがやがや、ああでもないこうでもないと仲間で議論し、これを試してみよう、あれを試したらどんな結果がでるかと、ワクワクしながらやっています。

研究者は、人にどう思われるかとか、お金持ちになりたいとかではなく、楽しいから、面白いから研究をしているのです。人目も気にせず自分の好きなことに没頭しているわけで、世間一般からしたら、奇異にみられることもあると思います。しかし、そこには純粋に真理の探究を目指す世界があるのです。

自分の好きなことや、やりたいことをする。自分の発想や工夫が、大発見や大発明につながるかもしれない。当事者たちは楽しくてたまらなくてやっているということです。

まだ見ぬ景色をもとめて

研究の面白さというのは、学校の勉強とはまったく異なるものです。学校の勉強は、言われたことを言われた通りにできるようにするという訓練的な要素が強い。でも研究は自らが動いて、新しいものを発見、生み出すというものです。

例えば、みなさんが読んだ本を積み上げて、その上に乗ったとします。すると少しだけ遠くが見えます。さらに大量の本を読んで積み上げ、その上に乗ると、もっと遠くを見渡すことができるでしょう。見える世界が違ってくる。うまく積み上げないと、ときには崩れて、こけてしまうかもしれない。でも試行錯誤を繰り返して、うまく高く積み上げる方法を見つけられれば、想像を超えて遠くまで見ることができるようになります。あるいはそれまでに思ってもみなかった方法を見つけて結果的に高いところまで上ることができたら、それもすばらしい。新しい世界が開けます。

研究を続けるとはこういった感覚に近いのです。

合成生物学という分野

僕が現在研究しているものは「合成生物学(synthetic biology)」という分野です。「合成生物学」とは、DNA やタンパク質などの生体構成物質を人工的に改変し、それらを組み合わせて新たな生命現象を作り出すことにより、生命システムを理解しようとする学問です。工学的な手法によって、複雑な生物学的システムを操作するというのが「合成生物学」の分野になります。その工学的な手法の一つとして、プログラミングの知識が必要になります。僕がプログラミングの勉強をしているのはそのためです。DNA-based computingと呼ばれる分野の課題に取り組んでいます。

今取り組んでいる研究内容について、具体的にみなさんにお話ししたいところですが、残念ながら秘密なのでここに書くことはできません。「秘密の研究」などと言うと、なにやら怪しい研究をしているのではないかと思われるかもしれません。ですが、けっして怪しいことをしているわけではなく、企業からの資金援助や特許などが関係してくるため、人に言うことができないのです。研究は発想と時間との戦いで、先に論文を発表できるか、特許を取れるかといったことがあります。そんなこんなで僕も、宝くじというか、一発当ててやるぜという勢いで日々研究しています。

時代は、読み・書き・プログラミング

さて、僕は研究のためにプログラミングの勉強もしていますが、これからの時代、プログラミングの教養は必須になると思っています。昔は「読み、書き、そろばん」と言われていたようですが、これからは「読み、書き、プログラミング」の時代に入るだろうということです。

次回は、これからの時代に要求されるスキルとはいったいなんなのか?というお話をしてみたいと思います。

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