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最終回 The Key to a Bright Future is Self-Esteem!

  • 連載 大川翔
  • 2019.12.27

大川翔(おおかわ・しょう)

1999年生まれ。5歳のときカナダへ。9歳でカナダ政府にギフティッドと認定され、12歳で中学を飛び級し高校進学。2014年春、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)、マギル大学、トロント大学などカナダ名門5大学に奨学金付きで合格し、話題となる。同年6月、14歳でトーマス・ヘイニー高校卒業。同年9月、UBC入学。2015年1月、カナダ総督アカデミック・メダル賞受賞。2016年12月、UBCサイエンス学部長賞受賞。2017年夏、アメリカ・グラッドストーン研究所(山中伸弥教授)にてインターン。2018年5月、18歳でUBC卒業(バイオロジー・オナーズ)。同年7月、孫正義育英財団第2期生に合格。同年8月から、東京大学先端科学技術研究センター(谷内江望准教授)にて研究開始。2019年4月、19歳で慶應義塾大学大学院(修士課程)入学。同年8月からトロント大学にて研究中(東大先端研とトロント大学の共同研究に従事)。著書に『ザ・ギフティッド 14歳でカナダのトップ大学に合格した天才児の勉強法』(扶桑社)、『僕が14歳で名門5大学に合格したわけ』(学研プラス)がある。

自信家にならえ! セルフエスティームを高める習慣とは?

前回は、やる気を継続させたり、逆境を克服したりするには「セルフエスティーム」、すなわち自尊感情が必要だという話をしました。しかし、このセルフエスティームとは、どのようにして高めていけばよいものなのでしょうか?セルフエスティームを高める方法論に関しては、すでに多くの方が言及しています。エビデンスを示して方法論を提示するのが昨今の流行りですが、まずは僕の経験則からお話しをしたいと思います。

自尊心が高く、自分に自信のある人には、自然と身についている習慣があります。僕は、そのひとつが「困難は分割せよ」という行動原則だと思います。最初から完璧にできるひとなど存在しません。最初は誰しもが初心者です。ですので、いきなり難しいことに取り組むのではなく、問題を切り分けて簡単なことから始め、徐々に難易度を上げていくのがよいと思います。スモールステップを踏むということです。できることや簡単なことから始めて、徐々に階段を上っていくイメージです。

ここで、僕がどのようにこれを実践しているのかを、いま取り組んでいるプログラミングの勉強を例にご紹介したいと思います。

「困難は分割せよ」!英語と算数からプログラミングを攻略する!

僕は今、自分の研究と並行して、プログラミングの勉強をしています。具体的にはPython(パイソン)(※1)を使えるように、日夜勉強に励んでいます。プログラミングを学ぶことは卒業前から決めており、当初はカナダでコンピュータ・サイエンスの学位を取ってから研究生活に入ろうと計画していたのですが、縁あって急転直下、日本へ行くことになりました。ですので、現在のプログラミングの勉強に関しては独学ということになります。独学というと、「よくできるね」と言われることもありますが、せっかく勉強し始めたので、途中でわからなくなって挫折した、ということがないように気をつけています。最近は、プログラミングにのめりこんでしまう人の気持ちが少しだけわかってきたところです。

幸運なことに、周囲の環境には恵まれており、僕が所属している東京大学先端科学技術研究センターや孫正義育英財団のメンバーには、化け物のようなプログラミング狂とも呼ぶべき方々がいます。「狂」という言葉を使うのは、少々不適切かもしれませんが、彼らののめりこみ方にはそのくらいのインパクトがあるということです。専門で学んでいるだけでなく、プログラミングの賞を受賞したり、独自のアプリを開発したり、若くして起業したりと、ちょっと常識では考えられないような人たちです。まあ、いわゆる変人ですね。僕も彼らから見ると十分変人に見えるようなので、人のことを言える立場ではありませんが、なんにせよ、「最も上手い人のマネをしろ。最初はマネで良い」というのが僕の祖父の教えです。僕はプログラミングに関してはド素人なので、そのプログラミング狂の方たちがどうやって勉強しているのかを観察して、自分に合った方法を模索しながら勉強しています。ありがたいことに、いろいろとアドバイスしてくれる方もいて、そんな方に「センスあるねえ」などと褒められるとますますやる気になれるので、楽しく勉強を続けられています。しかし、僕が継続してプログラミングの勉強をできているのには、これとは別に、もう1つ理由があります。それが、「困難は分割せよ」の実践によるものです。

先述したように、僕は今、Pythonをマスターしようと奮闘していますが、実を言うと、プログラミングの勉強をいきなりPythonから始めたわけではありません。大学時代にコンピュータ・サイエンスのコースでRacketの勉強をしたことがあります。Racketは大学などのコンピュータ・サイエンスの入門コースで使われるTeaching専用の言語で、実社会で使用するためのものではないのですが、その分、JAVAなどよりずっと簡単な言語だと言われています。実用的なPython を学ぶ前にRacketでプログラミングの基礎を学んでいたおかげで、比較的スムーズにPythonを理解することができています。また、英語や数学の素養があった点もうまく作用していると思います。すでにプログラミングの勉強をしている方ならお気づきでしょうが、プログラミングのコードはアルファベットで表記されているうえ、英語がわかるとコードの意味までも楽に理解できます。また、数学的な要素も含まれています。つまり、プログラミングは他の分野と有機的につながっており、すべては積み重ねの上に成り立っているのです。大学生になってからプログラミングの勉強をはじめた僕の場合は、これらの基礎があったということが、挫折せずに勉強できている一つの理由ではないかと思います。そして、有機的なつながりという意味では、逆のことも言えるように思います。つまり、小中学生の場合は、プログラミングの勉強をすることでより英語に馴染んだり、数学的素養を身につけたりすることにつながるということです。どちら側から山に登ってもいいというイメージです。

仮に僕が小中学生からプログラミングを始めていたら、今僕がやっているものよりも、さらに簡単なものから始めていると思います。なんにせよ、うんと小さな一歩でいいので、まず踏み出してみるのがよいと思います。小さな一歩の積み重ねが、ふと気づけば長い道のりとなり、教科や分野を超えた大きな変化をもたらすのです。

(※1)Python(パイソン):プログラミング言語のひとつ。コードがシンプルで扱いやすく設計されており、「少ないコード量でプログラムがかける」「コードが読みやすい」などといった特長がある。人工知能やWeb開発など、広い分野で使われている。

「困難は分割せよ」!未来の皿を洗い切るコツは、今日の皿しか洗わないこと!

このように、わかりやすいものから開始して、階段を上るように順序良く積み上げていく、というのが僕の勉強法です。このことを、もう少し別の角度から説明したいと思います。カーネギー(※2)の「道は開ける」に以下のような話があります。

―私は自分に言った。「見ろよ、ビル、お前の奥さんは実に幸福そうではないか。二人は結婚して十八年になるが、彼女はその間ずっと皿洗いを続けてきた。我々が結婚した時、仮に彼女が未来を見通していて、これから十八年間も皿洗いをしなくてはならないと知ったとしたら、どうなっていただろう?汚れた皿の山は、納屋以上の大きさになっていただろう。そのことを考えただけでも、うんざりするに違いないのだ」

そこで私は再び、自分に言った。「妻が皿洗いを気にしないのは、一度に一日分の皿を洗えばよいからだ」。私は自分の悩みの正体をつかんだ。私は今日の皿も、昨日の皿も、まだ汚れていない皿まで洗おうとしていたのだ。

私は自分の愚行に気がついた。―(『道は開ける 新装版』より引用)

このエピソードは、多くの示唆を含んでいると思います。例えば、ひとつのプログラミング言語をマスターするのには300時間、独学の場合は1000時間費やす必要があるといわれています。これを一気にやろうと思えば、普通はやる気が失せて、なかなか思うようにできないのではないでしょうか。物事に取り組むときは、いっぺんに全部やろうとするのではなく、目標を細かく設定して、今やるべきことに集中できる環境を整えることが重要です。僕のプログラミングの学習方法も、基本はこれと同じです。

それが、すなわち「困難は分割せよ」ということです。これは、あらゆる物事を成し遂げるために必要なスキルになります。ちなみに「困難は分割せよ」とはデカルト(※3)が『方法序説』の中で述べた言葉で、真理にたどり着くために提案した頭の働かせ方のひとつです。温故知新、昔の人はいいこと言いますよね。

“Divide each difficulty into as many parts as is feasible and necessary to resolve it.”

検討する難問の1つ1つを、できるだけ多くの、しかも問題をよりよく解くために必要なだけの小部分に分割すること。

(※2)デール・カーネギー:アメリカの実業家であり、作家。1937年に発売した自己啓発書の『人を動かす』は、世界的なベストセラーとして記録されている。

(※3)ルネ・デカルト:17世紀のフランスの哲学者であり、数学者。合理主義哲学の祖と呼ばれる。

「やればできる」を実感しよう!

ここまで読んでくださった方のなかには、「困難を分割する」ことで、ある大きなメリットが生まれることにお気づきの方もいるでしょう。それは、スモールステップをこなすことで、達成感、すなわち成功体験を得られるという点です。簡単なことでも、きちんとやりとげられれば達成感を感じられます。どんなに小さなことであっても、成功体験は大事です。それを積み重ねていくことで「自分はできる」と思えるようになり、セルフエスティームが身につくからです。僕自身も、成功体験を積み重ねることで自信がついて、もっと楽しさを感じるようになったり、「やればできる」という前向きな思考になったりするようになりました。また、それによって、より主体的に行動できるようになり、難しいことでも挑戦しようという気になりました。「困難は分割せよ」。それが、セルフエスティームが高い人が身につけている行動原則だと思います。

もちろん、セルフエスティームを獲得する方法は成功体験を積み重ねる以外にもあると思いますが、僕はこの方法が一番手っ取り早いと思っています。一見、物凄く困難に見える物事でも、小さく分割することにより、実行可能かつ実現可能になります。「目標をスモールステップに分割して小さな成功体験を積む→自信がつく→継続して取り組むことができるようになる→目標達成」というのが、セルフエスティーム獲得のひとつの図式だと思います。僕の体験のさらなる詳細については、母の著書『9歳までに地頭を鍛える!37の秘訣(扶桑社)』にありますので、興味のある方は参考にしていただければと思います。僕のコラムもあります!

サンタが日本にやってきた!?

さて、近況報告です。クリスマスの季節ですが、先日、サンタさんにお会いしました。カナダ大使館から招待状が届いて出席した、UBC Alumni & Friends eventでの出来事です。実はそのサンタとは、UBC President Dr. Santa Ono (ブリティッシュ・コロンビア大学のサンタ・オノ学長)のことです。ちなみに、サンタ・オノ学長は、日系(父親は愛知県出身の数学者、小野孝教授)のカナダ人&アメリカ人(※4)です。 サンタクロース以外にサンタという名前の人がいたとは、ちょっと驚きですね。この名前のことは、やはりよく聞かれるみたいで、パーティでのice-breakerになるそうです。ツイッターなどを活発に使う学長としても有名で、フォロワー数はなんと7万人以上! と、いうわけで、学長のツイッターとインスタグラムに、僕との2ショット写真もアップされています。

サンタ学長のルーツは日本にありますので、親しみが感じられて、その存在だけで元気になれます。お会いするだけで一足早いプレゼントをもらった気分です。僕も将来、サンタ学長のように、みんなを元気にできる存在になりたいと願うばかりです。

(※4)サンタ学長について:カナダ生まれアメリカ育ちで、両国の国籍をお持ちでいらっしゃるため、カナダ人&アメリカ人と表現している。

サンタ学長とのツーショット。お会いするだけで自然と笑顔になってしまうお人柄だ。

未来を生きる後輩たちへ伝えたいこと

最後に、ご挨拶です。これまで1年と数か月のあいだ記事を執筆してきましたが、今回が連載の最終回となります。プログラミングを始めとした、勉強の面白さや楽しさなどを少しでもお伝えできればと思い、頑張って書いてきました。全10回にわたりいろいろなことをお話ししてきましたが、今回のテーマである「Self-esteem(セルフエスティーム)」こそ、僕が一番みなさんにお伝えしたかったことでもあります。僕の話が少しでも皆さんのお役に立てていたのなら、これほど嬉しいことはありません。

それでは最後に、僕からひとこと。

“Self-Esteem is the Key to a Positive Mindset, and a Positive Mindset is Key to Success”

最後まで読んでくれて本当にありがとうございます。新しく迎える年が、みなさんにとって素晴らしい年になりますように!

トロント大学での実験中。これからももっともっと、「学ぶ」楽しさを感じ続けたい!

 

引用文献:『道は開ける 新装版』(著:デール・カーネギー/訳:香山昌/1999年 創元社)

 

 

 

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