第1回 「学ぶ」楽しさ
- 連載 大川翔
- 2018.11.30

大川翔(おおかわ・しょう)
1999年生まれ。5歳のときカナダへ。9歳でカナダ政府にギフティッドと認定され、12歳で中学を飛び級し高校へ進学。2014年春、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)、マギル大学、トロント大学などカナダ名門5大学に奨学金付きで合格し、話題となる。同年6月、14歳でトーマス・ヘイニー高校を卒業し、同年9月にUBCへ入学。2015年1月、カナダ政府からカナダ総督アカデミック・メダル賞受賞。2016年12月、UBCサイエンス学部長賞受賞。2017年夏、アメリカ・グラッドストーン研究所(山中伸弥教授)にてインターンを経験。2018年5月、18歳でUBCを卒業(バイオロジー・オナーズ)。同年7月、孫正義育英財団第2期生に合格。8月から、東京大学先端科学技術研究センター(谷内江望准教授)にて研究を開始する。2019年4月、19歳で慶應義塾大学大学院(修士課程)に入学。著書に『ザ・ギフティッド 14歳でカナダのトップ大学に合格した天才児の勉強法』(扶桑社)、『僕が14歳で名門5大学に合格したわけ』(学研プラス)がある。
はじめまして、大川翔です
僕は、5歳の春からカナダで暮らしてきました。12歳のとき一時帰国して、渋谷幕張中学校を受験し、合格。とても悩みましたが、家族会議の末、カナダに残ることにしました。実は、日本で言うと小学6年のとき、カナダで3学年飛び級して高校1年に。渋幕に行かなかったのは、飛び級先の勉強が楽しくて、早く大学に入り、いろいろな謎に挑みたいと思ったからです。
そして、2014年、14歳の春、複数の大学からスカラシップやアワード付きの合格通知をもらいました。このことは、カナダだけでなく日本のメディアでも取り上げられたので、ご存知の方もいるかもしれません。北米で若くして大学へ入学するケースのほとんどがホームスクーリング。僕は普通に公立高校に通って卒業したので、その点も話題になった理由のひとつだと思います。
大学合格後の夏には、当時の文部科学省の下村博文大臣や、神の手と呼ばれる心臓外科医の南淵明宏先生、将来のノーベル賞候補といわれる金髪ロンゲの天才物理学者・多田将教授のほか、楽天の執行役員で理論物理学者でもある北川拓也博士と会って話をする機会も得ました。みなさんにお会いして感じたのは、考え方がポジティヴで、自分のやるべきことに邁進しているということ。僕もそうありたいと強く思いました。
僕の学生生活を紹介。日本とは少し違います
2014年の9月、ブリティッシュコロンビア大学(UBC)サイエンス学部に入学。入学後は、学業関連(研究など)においても、学業以外の課外活動においても、様々なことに挑戦しました。僕の大学生生活の一端を簡単にご紹介します。まずは、学業関連から。
●1年生
・バンクーバー総合病院で病理学分野を経験
・UBCの教授のもと、有給の学部生研究助手として勤務
●2年生
・UBCの遺伝学分野の教授のもと、研究に従事
・大学関連の生命科学研究所で有給の学部生研究員として勤務
●3年生
・オナーズの課程(成績優秀者を対象とした特別な教育課程)に入る
・選抜され、ハーバード大学で研究発表を行う
・サイエンス学部長スカラシップ賞を受賞
●4年生
・カナダの生命科学研究所で研究に従事
・卒業論文の執筆
次に、課外活動についてです。北米では、学業と同じくらい、学生たちの主体的な活動が重視されます。
●1年生
・UBCサイエンス学部の学生会選挙に立候補し、1年生代表に選出される
・大学内の団体/認定クラブURO(Undergraduate Research Opportunities)で執行部に就任し、学部生の研究参加を促進するための援助活動を行う
●2年生
・UROの部門共同責任者に就任し、大学院生と学部生との交流機会を促進
・UBC志望の高校生たちに大学を案内し、それぞれの興味に応じた講義を受ける機会を提供
・山岸 伸カメラマンに撮影された自身のポートレートが、オリンパスギャラリー「瞬間の顔」写真展に展示される
●3年生
・学部生の研究論文の編集を行う
・サイエンス学部長スカラシップ賞受賞後、スカラーズ・コミュニティに参加。コミュニティ内でさらに立候補し、アドバイザリー・カウンシル(世話役会)のメンバーに選出される
●4年生
・カナダの日系人向け新聞「バンクーバー新報」の取材を受ける
・学研ジュニア新聞で「大川翔のアイディア発明所」を連載・卒業論文の執筆
・『僕が14歳で名門5大学に合格したわけ』(学研プラス)を上梓
こうした学生時代の活動を通して、多くの貴重な出会いも得ることができました。
2016年の夏には、エピジェネティクス(※1)の第一人者である九州大学副学長・九州大学防御医学研究所の佐々木裕之教授や、京都大学iCeMS(※2)主任研究者の斎藤通紀教授にお会いして、今、先生方がどういう研究をしているのかについて、教えてもらいました。
2017年の5月から6月には、アメリカへ行き、サンフランシスコにあるグラッドストーン研究所でノーベル賞学者である山中伸弥教授のもと、NAT1(※3)の研究のお手伝いをする機会にも恵まれました。最先端の研究に携わるという、貴重な体験でした。
そして、2018年の5月にUBC生物学のオナーズの課程を卒業。卒業前からコンピュータープログラミングの勉強を開始。同年7月には孫正義育英財団の第二期財団生(準財団生)に合格しました。8月からは東京大学の研究室に招かれ、先端科学技術研究センターで、インターンとして働いています。
(※1)エピジェネティクス:遺伝子が同じ双子でも、よく見ると少し見た目が違う。全く同じ遺伝子を持つはずなのに、どうして違いが生じるのか? DNAの配列に変化を起こさず、かつ細胞分裂を経て伝達される遺伝子機能の変化やその仕組みを探求する学問。1950年ころに活躍した英国の発生学者ウォディントンによる言葉。
(※2)iCeMS:京都大学に拠点を置く細胞生物学の研究所。幹細胞(ヒトの体内において細胞を生成する役割を担う細胞)の制御による医学・創薬への貢献を目指している。細胞生物学に化学、物理学、数学など複数の分野からの視点を掛け合わせる学際的な研究体制が特徴。
(※3)NAT1:タンパク質の一種。マウスの多能性幹細胞(分裂を通して自在に別の種類の細胞に性質を変化させることのできる特別な細胞)において、分裂と変化を促すタンパク質の生合成を促進することが、山中伸弥教授らの研究グループにより明らかにされた。この発見は、ヒトの多能性幹細胞をより多能的かつ安定的な状態へ変化させる研究に貢献すると考えられている。
「学ぶ」ことの楽しさを共有したい
ここまで書くと、「お前は天才だからできるんだろう」と言われそうですが、そんなことはけっしてありません。僕は天才ではないし、実は僕のような人は日本にたくさんいると思っています。ただ、いままでは、制度的な問題があって表に出てこなかっただけなのだと。
実際、学業面で言えば、日本には、中学3年くらいで大学に合格できる学力を身につけている人が数多くいると聞きますし、若いうちから多彩な能力を身につけている人も大勢いるはずです。例えば、僕が所属している孫正義育英財団の財団生は、かなりぶっとんだ面々ですし、その経歴・実績を見れば、学業面はもとより、いかに発想力、創造力、行動力に富んでいるかわかると思います。こんな人たちが表舞台に出始めたということは、日本の制度や、求められている人材像が変わりつつあることを示しているのではないでしょうか。
そして、そんな日本のぶっとんだ人たちに共通しているのは、学ぶことやチャレンジすることを心から楽しんでいるという点です。問題が解けた瞬間や、新しい知識を得たときに、僕は快感をおぼえます。本来、勉強は楽しいはずですし、楽しむべきものだと思うのです。学ぶこと・チャレンジすることを楽しいと感じる気持ちは、もともと人間に備わっている能力なのだから、これを活かさない手はありません。好奇心や知識欲が、物事を解決する原動力になっていると思いますし、そのときのワクワク感が、毎日を充実したものにしてくれていると、僕は感じているのです。
けれども、残念なことに、勉強をつまらないものだと思っている人も多いのではないでしょうか。これまでは、いい学校に入っていい就職をするというような、形が先にありきの目標設定のしかたが、社会全体で良しとされてきたためかもしれません。結果への思い入れが強くなるあまり、勉強を楽しむ気持ちが失われてしまうのは、もったいないことです。
しかし、これから世の中は激変します。過去30年で起こった変化とこの先30年で起こる変化は同じではないし、間違いなく変化に加速度がつく。そして、教育の世界における評価の基準も例外ではありません。おそらく、頭に詰め込んだ知識の量よりも重要視される基準が、新たな価値観として出現します。将来要求される能力というのは、失敗しても挑戦していく姿勢、正解がない問題にどう取り組むかを考える力、受け身ではなく自ら動くこと、などではないでしょうか。学歴による一元的価値観ではなくて、もっと多様化した基準で判断される時代が来る、そんな気がしているのです。
未来を生きる後輩たちへ伝えたいこと
さて、僕がなぜ専門とは直接関係のないコンピュータープログラミングの勉強をし始めたかというと、それが将来絶対に必要になるだろうと強く思ったからにほかなりません。何が未来に要求されるかを考え、未来を生きるためのスキルがわかれば、自ずとやる勉強は決まってきます。なぜプログラミングが必要となるのか、それについてはまた別の機会に話そうと思っています。
そして、僕は今、とてもワクワクしています。
僕たちの未来は明るい。なにせ僕たちが作るんだから、明るいに決まっています。
僕が後輩たちに伝えたいことは
A bright future is waiting for you.
明るい未来に向け、失敗を恐れず、果敢に挑戦していこうではありませんか!